女性ホルモンについて(1)

今日から、当院の患者様のお悩みで多いものについて、1つずつ解説をしていきます。すでにご存じのこともおありかもしれませんが、復習を兼ねて確認することであやふやな所が整理されると、理解が深まる事でしょう。「勉強は苦手…」という方も、基本的な情報を知ることがご自身の体で何が起こっているかを知る第一歩となり、不安が軽くなります。解決策を考えるヒントとなれば幸いです。
第一回目は「女性ホルモンの乱れによって起こる症状」です。
1.女性ホルモンとは
女性ホルモンとは、女性特有の臓器である卵巣から分泌される2種類のホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)です。第二次性徴が始まる思春期から量が増え、女性らしい体つきや月経、妊娠・出産などに影響を与え、45~55歳位の更年期になると徐々に量が減り、閉経により分泌が終わります。
その量は一生のうちティースプーン1杯ほどとごくわずかですが、女性の一生に良くも悪くも大きな影響を与えるホルモンです。そのため、出すぎたり少なすぎたりしないよう、その量や分泌のタイミングを脳からの指令系のホルモンが厳しくコントロールしています。種類としては以下の通りですが、役割の関係性を会社組織に例えるとわかりやすいかもしれません。
(1)脳(間脳・視床下部)から出るもの…社長
性腺刺激ホルモン放出ホルモン/抑制ホルモン(GnRH)
(2)脳(下垂体)から出るもの…直属の上司
性腺刺激ホルモン(GnH、ゴナドトロピン)
ア.卵胞刺激ホルモン(FSH)
イ.黄体形成ホルモン(LH)
(3)卵巣から出るもの…現場のヒラ社員
ア.卵胞ホルモン(エストロゲン、エストロジェン)…ゲンはドイツ語読み、ジェンは英語読みです
イ.黄体ホルモン(プロゲステロン、プロジェステロン)…ゲスはドイツ語読み、ジェスは英語読みです
ここまで読んで、早くも嫌になってしまった方もいらっしゃるかもしれません。教員時代に使っていた授業資料なので、小難しいですよね。
通常「女性ホルモン」と呼ばれているのは(3)の卵巣から出る「エストロゲン」「プロゲステロン」の2種類なのですが、この2人が暴走しないよう、あるいは怠けすぎないように、脳には見張り役がいるんですね。(ホルモンのフィードバック機構といいます)
会社で例えるなら、平社員が怠けていると全身の女性ホルモンが少なくなるので、業績悪化に気づいた社長が「もっとしっかり仕事させろ!」と上司を呼びつけ、上司はヒラ社員に「仕事しろ~!!」と喝を入れる。逆に働き過ぎていたら「少し休ませなさいよ」と社長さんが上司に指示を出し、上司が「君たち、これでおいしいものでも食べて休みなさい」と差し入れを入れたり、「仕事は順調だし、たまには有給休暇でも消化したら?」と言ってくれたり…という感じでしょうか^^
2.女性ホルモンと月経周期

まずは、女性ホルモンが規則唯悪しく働いている場合を見てみましょう。
月経開始1日目から「月経周期」を数え始めます。
卵胞期…月経が終わる5~7日目頃から、徐々に「エストロゲン」が増加していきます。調子よく活動的になる時期です。
排卵…月経開始から約2週間後、脳下垂体から黄体形成ホルモンがドバっと出ること(LHサージ)で、卵巣から排卵が起こります。飛び出た卵はラッパのような卵管采がキャッチして、卵子は卵管膨大部で精子が来るのを待ちます。
黄体期…排卵を境にエストロゲンとプロゲステロンの量が逆転し、今度は「プロゲステロン」が増加していきます。体温が上がってほてりを感じたり、むくんだりして調子が悪いと感じやすい時期です。子宮は妊娠に備えて子宮内膜(卵が寝る布団のようなもの)を厚くしてスタンバイしますが、受精が成立しないと、古くなった卵&布団を捨てて次に備えます(翌月の月経)。
…と、大体ここまでが28日周期で起こるのが正常な月経周期となります。
3.卵巣から出る2種類のホルモンの働き
(1)卵胞ホルモン(エストロゲン)
卵子を包んでいる「卵胞」から分泌されるホルモンで、一言でいうと“女性らしさ”を作るホルモンです。主な働きは以下の通り。
- 乳房や性器の発達を促す
- 子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする
- 体に脂肪を付け、冷えや外部の衝撃から体を守り、丸みのある女性らしい体つきにする
- 骨、血管、関節を健康に保つ
- 認知機能を維持する
- 肌や粘膜を潤す
- 子宮内膜症や子宮筋腫、子宮体癌、乳癌などの病気を悪化させる
あれ、「何だかいいことづくめじゃない?」と思った方、ちょっと待ってください!女性雑誌などでも「エストロゲン=美のホルモン、プロゲステロン=ぶすホルモン」なんて安易な取り上げ方をされたりしますが、主な働きの一番下をよ~くご覧くださいね。
実は、女性の美しさを高め体を健康に保ってくれるエストロゲンなのですが、特定の病気のリスクを高めてしまう作用もあるんです。代表的なのは子宮体癌や乳癌ですが、一生涯の中でエストロゲンにさらされる期間が長いほど、これらの癌も成長してしまうためリスクが上がります(エストロゲン依存性といいます)。
現代人は栄養状態が良いため、早熟で初潮年齢が早く、閉経が遅い傾向があります。また、妊娠・出産・授乳中は月経が停止してエストロゲンの作用を受けにくくなりますが、現代人は出産回数が少ないため、この点でも高いエストロジェンにさらされる期間が長くなります。
(2)黄体ホルモン(プロゲステロン)
排卵後に卵胞が変化した「黄体」から分泌されるホルモンで、一言でいうと「子どもを産み育てること」に関わるお母さん準備ホルモンです。
主な働きは以下の通り。
- エストロゲンによって増殖した子宮内膜を成熟させ、受精卵が着床しやすい状態にする
- 妊娠したときに、その継続を助ける
- 体温を上昇させる →ほてりやすい
- 食欲を増す →太りやすい
- 水分をため込む →むくみやすい
- 腸の働きを抑える →便秘になりやすい
- 眠気を催す →活動性・集中力が落ちやすい
「何だか、散々だなぁ…」と思った方も多いかもしれませんね。実際、排卵を境に体がボーっとして、頭もボーっとして、化粧のりも悪いし、体は重くむくんで、ダイエットしても効果は出ずむしろ栄養ため込みモードになるので太ったりしがちです。
たしかに、現代社会に生きる我々としては、常に「仕事をして、家事や育児をして、頭も心も体も冴えた状態で慌ただしく動き続けなくてはならない!」と思うと厄介かもしれません。
ただし、妊娠という大仕事を控えていると考えると、生物学的にはこれらの働きはとても理にかなっています。妊娠している可能性のあるメスが活動的にふらふら動き回ると、捕食などで命を落とす危険や、ケガをして胎児が死ぬ危険があるので、眠くなって活動性が低下した方が安全です。また、摂取できる栄養が限られても最大限効率よく蓄えられることで、じっとしていてもお腹の中で子を育むことができます。
女性本人からすると不愉快なホルモンではありますが、種の保存の観点から体内で指令が出ているんだな…と考え、黄体期は無理せずとっとと寝てしまいましょう。
4.女性ホルモン乱れるとき、心身の不調もまた現る…
月経周期も女性ホルモンの働きも確認したところで、ではどのような時にバランスが乱れやすいかを見ていきましょう。
ライフサイクル上大きいのは女性ホルモンが増え始める「思春期」と、減り始める「更年期」です。また、月ごとの「月経」も2つのホルモン量が切り替わることで管理されているので、「月経前後」もバランスは乱れがちです。
さらに、困ったことに、現代社会は女性の性周期を乱す要素がてんこ盛りです。
中でも大きいのは「冷え」と「ストレス」です。肉体的には立ち仕事や過重労働からくる疲労や下半身の巡りの悪さなどがあげられます。精神的には仕事や人間関係からくるストレスなどが挙げられます。
こうした、自分ではコントロールできず逃げることも避けることもできない長期にわたるストレスは、脳から分泌されるホルモンにダイレクトな影響を及ぼし、「社長→上司→ヒラ社員」の体内ホルモン指揮系統を狂わせてしまいます。
指令系統がうまく働かないと、現場のヒラ社員もどうしたらいいかわからず、ついお仕事をさぼってしまいがち。ボスの指示なくしては、形だけの月経はあっても卵が出ていない(無排卵性月経)なーんてことも。ヒトの体は繊細なのです。
…というわけで、次回はもう少し具体的な症状を掘り下げていきたいと思います。